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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)2403号 判決

原告 国

訴訟代理人 館忠彦

被告 清水機械株式会社

主文

被告は、原告に対し、金七七〇、六七〇円およびうち金三三七、〇九一円に対しては昭和二八年七月一一日から、うち金四二六、三九〇円に対しては昭和三〇年五月二一日から、うち金二、〇〇四円に対しては同年八月一六日から、いずれも完済にいたるまで、金一〇〇円につき一日金五銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決はかりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金七七〇、六七〇円およびうち金三三七、〇九一円に対しては昭和二八年七月一一日から、うち金四二六、三九〇円に対しては昭和三〇年五月二一日から、うち金二、〇〇四円に対しては同年八月一六日から、いずれも完済にいたるまで、年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに「仮執行の宣言を求める。」と申し立て、

予備的請求として、主文第一項と同趣旨の判決を求めると申し立て、

第一次的請求の原因として、

「(一)、原告は、その所管庁である関東財務局をして、昭和二五年八月五日ころ産業機械等の製造販売を目的とする被告会社に対し、別紙目録記載の機械を、期間は同年一一月一日から昭和二六年三月三一日まで、賃料は同目録記載(一)のとおり合計金三五、八八五円(一円未満は一円に算入する。以下同じ)と定め、これを原告の指定する期日までに支払うこと。右支払を怠つたときは、支払期日の翌日から金一〇〇円につき一日金五銭の割合による延滞金を支払うことと約して、右機械を賃貸し、同日ごろその引き渡しをした。

(二)、そこで、原告は、昭和二六年八月二一日付納入告知書をもつて、被告に対し、右賃料金三五、八八五円を同年九月一〇日までに支払うよう催告し、そのころ右告知書は被告に到達したが、被告は、納入期日を徒過した昭和二七年六月二五日ようやく右賃料を支払つた。そこで、原告は、さらに同年一〇月一〇日付納入告知書をもつて、被告に対し、右催告による納入期日の翌日から賃料の支払をした同年六月二五日までの間、右賃料額に対する金一〇〇円につき一日五銭の割合による延滞金五、一八五円の支払方を催告し、そのころ右告知書は被告に到達したが、被告はその支払をしない。

(三)、しかして、前記賃貸借契約は、昭和二六年三月三一日の期間満了により消滅したにもかかわらず、被告は、右機械を返還せず、ようやく、昭和二九年四月三〇日別紙目録記載の(1) ないし(5) の機械を、残機械は昭和三〇年三月二五日に返還して来た。原告は、被告の右返還義務の遅滞により、その間、同目録記載の(二)ないし(六)のように賃料相当の損害をこうむつているから、被告はその賠償義務がある。そこで、その支払を求めるため、被告に対し、昭和二八年六月二〇日付納入告知書をもつて、昭和二六年四月一日から昭和二八年三月三一日までの間の賃料相当の損害金すなわち同目録記載の(二)、(三)の合計金三三七、〇九一円を同年七月一〇日までに支払うよう催告し、さらに、昭和三〇年五月四日付納入告知書をもつて、右(1) ないし(5) の機械についての昭和二八年四月一日から返還前日である昭和二九年四月二九日までの間の同損害金すなわち同目録記載の(四)、(五)の合計金一二四、五〇六円と、残(6) ないし(10)の機械についての昭和二八年四月一日から昭和三〇年三月一九日までの間の同損害金すなわち同目録記載の(四)、(五)の合計金三〇一、八八四円以上合計金四二六、三九〇円を同年五月二〇日までに支払うよう催告し、なお、同年七月二九日付納入告知書をもつて右(6) ないし(10)の機械についての同年三月二〇日から返還前日である同月二四日までの間の損害金すなわち同目録記載の(六)の合計うち金二、〇〇四円を同年八月一五日までに支払うよう催告し、右告知書はいずれもそのころ被告に到達したが、同人はその支払をしない。よつて、原告は、被告に対し、前記延滞金および損害金の合計金七七〇、六七〇円およびうち金三三七、〇九一円に対しては支払期日の翌日である昭和二八年七月一一日から、うち金四二六、三九〇円に対しては同じく昭和三〇年五月二一日から、うち金二、〇〇四円に対しては同じく同年八月一六日から、いずれも完済にいたるまで、商事法定利率による年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と述べ、

予備的請求の原因として、「(四)、かりに、前記賃貸借契約が期間満了により消滅することなく更新されていたものとすれば、被告は、その資料の支払義務があるところ、右賃貸借契約の締結に際し、原、被告間において、賃料額の改訂については、原告が物価の高騰等経済界の事情を勘案して定めた額に従い、その通知は納入告知書をもつてすることとする特約が付されていた。しかして、右賃料は、各年度ごとに改訂され、その額は、別紙目録記載の(二)ないし(六)の金額と同額であり、原告は、その改訂通知およびその支払を納入告知書をもつて催告し右告知書が被告に到達したこと前記(三)記載のとおりであるが、被告はその支払をしない。よつて、原告は、予備的に、被告に対し、前記(二)の延滞金五、一八五円と昭和二六年四月一日から前記機械を返還した各前日までの間の賃料合計金七七〇、六七〇円およびうち金三三七、〇九一円に対しては支払期日の翌日である昭和二八月七月一一日から、うち金四二六、三九〇円昭和三〇年五月二一日から、うち金二、〇〇四円に対しては同年八月一六日から、いずれも完済にいたるまで、約定に基く金一〇〇円につき一日五銭の割合による延滞金の支払を求める。」と述べ、

被告の主張に対し、「同人主張の(一)の事実のうち、別紙目録記載の(1) ないし(5) の機械について賃貸借当初より主張の欠品および破損があつたことは認めるが、その余の事実は争う、同(二)の事実のうち、一時使用認可書が主張のころ被告に作成交付されたことは認める。その余の事実および同(三)の事実は争う。

(五)、賃貸機械についての欠品および破損状況は、賃貸借当初から被告においてこれを十分承知のうえ借り受けたものであり、しかも、右欠品および破損等は同人が自己の出損においてこれを修補し使用する旨の特約があつたから、いまさら被告が主張の解約を申し入れる理由もその事実もない。

また、原告が賃料の算定をするに当つても、右欠品および破損状況に応じて減価率を定め、基準価格に減価率を乗じた金額を欠品見積額とし、基準価格からこれを控除した金額を実価格として、これを算定乗率(機械の耐用年数および残存率により算出する)を乗じた額を評定価格と定め、その価格を耐用年数二分の一で除じた額を年額賃料としたもので、右の事情は十分考慮のうえ賃料額を決定している。

(六)、被告は、賃貸借契約は更新されたと主張する。しかして、右賃貸借契約が民法上のそれであることについては争わないけれども、一般に国が引き続き賃貸する場合には、賃借人から改めて『使用申請書』を提出せしめ、これに基き許否を決する方法で処理されていたもので、この間の事情は被告も十分承知していたものである。しかるに期間を経過しても、被告から、引き続き使用したい旨の意思表示もなく『使用申請書』の提出もなかつた。もちろん原告の使用認可もない。あまつさえ、被告は期間満了後の機械の使用を辞退する旨意思表示をしていたこと同人の自ら主張するところであるから、これらのことからしても、被告主張の更新はあり得ない。もつとも、『普通財産一時使用認可書』が約定の期間満了後に作成交付されていることは争わないけれども、これは、前記(一)の賃貸借契約を明らかにし、証拠を残しておく趣旨のもとに作成交付されたものであつて、期間満了後の継続使用を認めたものではない。

(七)、被告は、約定の期間満了後における賃料もしくは損害金の算定が過大であると主張するけれども、右算定は前記(五)の方法に準じてなされたもので、その額は他に比して決して高額なものではない。もつとも、賃料等は逐次増額されたけれども、昭和二七年度分については、鉄鋼非鉄金属資材ならびに勤労者平均賃金水準等の値上りにともない、機械器具の価格換算率が大蔵省管財局長よりの通達(昭和二六年三月三〇日付蔵管第二、〇五三号)により増加したためであり、また、昭和二八年度分については、貸付料年額を貸付時の時価(評定価格)に貸付料算定率を乗じて算出した額としたために増加したものである。」と述べた。

立証〈省略〉

被告訴訟代理人は、「原告の請求はいずれも棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告主張の(一)、(二)の事実は認める。同(三)の事実のうち、賃貸契約が期間満了により消滅したことおよび損害額は争う。その余の事実は認める。同(四)の事実のうち、主張の特約がなされたことおよび賃料額は争う。その余の事実は認める。(一)、被告が借り受けた機械のうち別紙目録記載の(1) ないし(5) の機械については、当初から同目録記載(七)のとおり欠品および破損等があり、使用不可能であつたので、その引き渡しを受けた昭和二五年一一月二八日、直ちに原告に対し、右機械についての賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたから、翌二九日右機械についての賃貸借契約はここに終了したものである。しかるに、原告は被告の再三にわたるその返還申し出に対し引き取りに来なかつたものである。したがつて、被告は、右解除物件についての賃料支払義務はない。もつとも、被告は、原告に要求されるままに、元来支払義務のない右解除物件についての賃料すなわち別紙目録(一)の赤書記載のとおり合計金一五、二四五円を含めて賃料合計金三五、八八五円を支払い、金二〇、六四〇円の過払をしている。

(二)、残余の別紙目録記載の(6) ないし(10)の機械については、原告主張の期間満了後、被告はその返還を申し出たが、引き取らなかつたので、その使用を継続し、これに対し原告はなんら異議を申し述べなかつたから、右機械についての賃貸借契約は黙示の更新により継続されていたものというべきである。しかるに、その後賃料の値上げはなかつたから、賃料は当初の約定賃料によるべきところ、右残余物件についての賃料は年合計金三〇、一八六円であるから、賃借当初から右機械を返還した昭和三〇年三月二五日までの合計賃料金二二一、三八四円についてはその支払義務があるけれども、その余の支払義務はない。もつとも、原告は、賃料の値上げをしたというけれども、当事者間においてなんらその合意はなされなかつたし、一度決定した賃料額を一方的に増額変更できる旨の約定もないから、そのいわれなきことはいうまでもない。

なお、かりに、前記(一)の解除が認められないときは、別紙目録記載の(1) ないし(5) の機械についても、右の如く賃貸借契約の更新がなされたものというべく、したがつて、右機械についての賃料は、前同様当初の約定賃料年額合計金三六、〇五四円によるべきであるから、賃借当初より右機械を返還した昭和二九年四月三〇日までの合計賃料金一二九、七九四円についてはその支払義務があるけれども、その余の支払義務はない。

右更新の事実は、原告が期間満了後の昭和二六年八月四日被告に対し本件機械についての『普通財産一時使用認可書』を作成交付していること。被告の右機械を返還するまでの間原告からの契約解除の申し入れもしくは機械の返還要求等全くなかつたことに照しても明らかである。

(三)、被告は、原告主張の(二)の延滞金五、一八五円の支払義務があることは認めるけれども、右債務と、前記(一)の過払金二〇、六四〇円の返還請求権とを対当額において、本訴で、これを相殺する。したがつて、右延滞金の支払義務はない。」と述べた。

立証〈省略〉

理由

原告主張の(一)の事実については当事者間に争いがない。してみれば、原、被告間において、原告主張の賃貸借契約(もつとも、被告は、別紙目録(一)の赤書記載のように原告主張の賃料と異なる金額を算出しているけれども、これを認めるに足りる証拠はない。)が成立したものというべきである。

そこで、被告主張の(一)の事実について判断するに、別紙目録記載の(1) ないし(5) の機械について賃貸借当初から被告主張の欠品および破損等が存したことについては当事者間に争いがない。被告は、右機械につき欠品等による使用不可能を理由として賃貸借契約解除の意思表示をしたと主張し、証人高岡晟の証言(第一、二回)によれば、被告は、前記欠損機械につき、当初から所管庁に対してその返還方を申し出たこともあるようにうかがわれないでもない。しかしながら、いずれも成立に争いのない甲第一号証の二、同第五号証、同第七ないし九号証、右証言および証人日吉宏の証言を総合すると、被告は、昭和二五年八月五日付「賠償施設一時使用申請書」をもつて、大蔵大臣に対し、右機械を含む別紙目録記載の機械を自ら選出してこれを賃借したい旨申し出で、特に、右欠損機械については、被告において修理使用するという特約のもとにこれを賃借して、自ら右機械を自己の工場に運搬し、同所に設置したこと。そして、その直後、被告は、所管庁の係官立ち合いのうえその欠損状態の点検も了していること、しかも、被告は、昭和二八年八月四日付関東財務局長作成名義の「普通財産一時使用認可書」を受領し(この点については当事者間に争いがない。)、右使用認可書(成立に争いのない甲第五号証)には、右欠品等の機械五台も含まれており、被告は、右一時使用認可書を異議なく受領していること。被告は、昭和二七年六月二五日、右欠損機械を含めて賃借機械全部の賃料(賃借期間の終期と定められた昭和二六年三月三一日までの分)金三五、八八五円を支払いさらに、その後四ケ月を経ない同年一〇月一〇日付で、右欠損機械を含む賃借機械全部につきその延滞金五、一八五円の支払請求を受けたにかかわらず(右の賃払いおよび延滞金支払請求の点については当事者間に争いがない。)、あえて右の欠損機械返還の挙に出ることなく、これを自己の占有にとどめ、昭和二九年四月三〇日に至りようやく右の欠損機械を返還したこと(残余の機械にいたつては、昭和三〇年三月二五日これを返還した。なお、この点については当事者間に争いがない。)以上の事実が認められ、その反面、本件にあらわれた全証拠に照しても、原告側で、その間、被告の前記返還の申出に対応してなんらかの措置をこうじないしは考慮を払つたものとみるべき事跡の存しないことを総合して考察すれば、被告の前記返還の申し出をもつて直ちに被告の主張するような契約解除の意思表示とみることは困難であるといわざるを得ない。本件全証拠によるも、他にこの点に関する被告の主張事実を認めるに足りない。してみれば、別紙目録記載の(1) ないし(5) の機械についても、前認定の賃貸借契約が依然存続していたものといわざるを得ない。したがつて、被告は同目録記載の機械全部について当事者間に争いのない約定賃料金三五、八八五円を支払う義務があるところ、被告が右賃料を昭和二七年六月二五日支払つたことおよび原告主張の(二)の延滞金五、一八五円の支払義務があることについては当事者間に争いがない。

被告は、右延滞金支払債務と、別紙目録記載の(1) ないし(5) の機械についての賃料名義による過払金二〇、六四〇円の返還債権とを対当額において相殺する旨主張するけれども、右機械についても原告主張の賃貸借契約が存続し被告はその賃料の支払義務があること前記のとおりであるから、その義務のないことを前提としてする右主張は、その余を判断するまでもなく、理由がない。

そこで、右賃貸借契約が更新されたかどうかの点について判断するに、右契約が期間を昭和二五年一一月一日から昭和二六年三月三一日までとしたこと。被告主張の「普通財産一時使用認可書」が期間満了後の昭和二六年八月四日作成交付されていることについては当事者間に争いがない。しかして、被告の期間満了後における賃借機械の使用について、原告からの異議の申し出もしくは機械返還等についてなんらかの処置がとられたことについてはこれを認めるに足りる証拠はない。しかも、証人宮下節雄、里村敏、日吉宏の各証言を総合すると、本件賃貸借機械は、賠償指定物資として、連合軍総司令部の管理下に置かれ、必要とあれば賃貸借期間中といえどもこれを連合軍に引き渡さなければならなかつたので、特に期間を短期にしたものであるが、連合軍からの引渡請求がない限り、期間満了後における継続使用は許容されていたことが認められ、他に、期間満了後直ちに賃貸借契約を消滅せしめなければならない特段の事由があつたものとは認められない。のみならず、成立に争いのない甲第二、三号証の各一、二によれば、原告は、期間満了後における被告の機械使用につき、毎年度ごとにその貸付料額を算定(これを賃料もしくは損害金のいずれに解するかは別として、証人里村敏、日吉宏の各証言によれば、いずれに解しても、その額は同一であることが認められる。)していることが認められる。これらの事実からすれば、前記賃貸借契約は、期間満了後においても、黙示の更新により継続されているものといわざるを得ない。もつとも、証人宮下節雄、里村敏、日吉宏の各証言によれば、一般に、国が期間満了後引き続き賃貸する場合においては、賃借人から改めて「継続一時使用認可申請書」を提出せしめたうえ、その許否を決していたことが認められるところ、期間満了後における被告の前記機械の使用につき、被告から継続使用したい旨の意思表示があつたことについては証人高岡晟の証言(第一、二回)をもつてしても認めるに足らず、他にこれを認めるに足りる証拠はないのみならず、右申請書の提出もしくは原告の使用認可があつたことについてもこれを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、被告主張の「普通財産一時使用認可書」が期間満了後に作成交付されていることの前記争いのない事実に、証人里村敏、日吉宏の各証言を総合考慮すると、右「継続一時使用認可申請書」の提出等は、原告側における事務処理の明確を期するための単なる証拠の保全に過ぎないと解されるから、右手続が履践されていないことの一事をもつて直ちに賃貸借契約が期間満了により当然終了したものとはとうてい解されない。また、原告は、被告において使用辞退の意思を表示していたから更新はあり得ない旨を主張して抗争し、証人高岡晟の証言(第一、二回)中、右主張にそうごとき供述部分が存するが、さればといつて、これをもつて前記黙示の更新に関する妨げる資料として採用しがたいところといわなければならない。以上のしだいで、期間満了より賃貸借契約は終了したとして、賃料相当の損害金の支払いを求める原告の(三)の主張は、その余を判断するまでもなく、理由がない。故に、原告の第一次的請求は、前記延滞金五、一八五円の支払いを求める限度においては、理由があるけれども、その余の支払いを求める部分は、失当である。

そこで、原告の予備的請求について判断するに、前記賃貸借契約は約定の期間満了後においても更新により継続されていたこと前記のとおりであり、しかして、被告が原告主張の日に賃借機械を返還したことについては当事者間に争いがなく、したがつて、右賃貸借契約は同日終了したものと解されるから、被告はその間の賃料を支払う義務があるところ、原告主張の(四)のように、賃料は逐次値上げされ、その主張の各日時に納入告知書をもつて被告に対しその支払いを催告したことについては当事者間に争いがない。そこで、原告の一方的な賃料の値上げが許されるかどうかについて判断するに、前示甲第七号証によれば、被告は、賃借機械についての賃料は官の指定のとおり支払う旨申し述べてその一時使用を申請していることが認められるのみならず、前示甲第五号証、証人宮下節雄、里村敏、日吉宏の各証言を総合すると、一般に、原告が賃料の算定およびその改訂等にあたつては、すべて大蔵省の訓令指示に従い、原告主張の(五)、(七)のような方法によつて算出され、その算出額は他に比し必ずしも高額でないために、原告を賃貸人とする賃貸借については、賃料額の決定およびその改訂等はすべて原告の一方的な意思表示によつてなされるのが通例であり、本件賃貸借契約においても、原、被告間に、原告の一方的な意思表示によつて賃料の改訂がなし得る旨の特約が存し、納入告知書をもつてその通知および支払催告を兼ねしめていたことが認められる、証人高岡晟の証言中(第一、二回)右認定に反する部分は採用しがたい。してみれば、原告主張の賃料の値上げは有効であるものというべく、被告はその値上賃料を支払う義務がある。したがつて、被告は、原告に対し、前記延滞金五、一八五円と昭和二六年四月一日から前記賃借機械を返還した各前日までの間の賃料合計金七六五、四八五円(一円未満は四捨五入する。以下同じ)以上総計金七七〇、六七〇円およびうち別紙目録記載の(二)、(三)の合計金三三七、〇九一円に対しては当事者間に争いのない支払期日の翌日である昭和二八年七月一一日から、同目録記載の(四)、(五)の合計金四二六、三九〇円に対しては同じく昭和三〇年五月二一日から、同目録(六)記載の合計金二、〇〇四円に対しては同じく同年八月一六日から、いずれも完済にいたるまで、当事者間に争いのない約定の金一〇〇円につき一日金五銭の割合による延滞金を支払う義務がある。

よつて、原告の本件請求は理由があるから、正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳川真佐夫 井口源一郎 金子仙太郎)

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